分子夾雑の生命化学

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新学術「分子夾雑化学」レクチャーツアー ( A01 計画班 : 浜地先生 )

レクチャーツアー報告書

京都大学大学院工学研究科 教授 浜地 格

総括班・計画研究A01班の浜地格は、2019428-51日まで、アメリカ:ワシントンDC近郊のJanelia Research Campusで開催された第2Janelia: Chemical Tools fro Complex Biological Systems IIというコンファレンスにおいて、多成分分子夾雑系である生細胞や組織での内在性タンパク質ケミカルラベリングやタンパク質表面のinactivatedリジンを標的とするcovalent inhibitorの設計とガン細胞生育阻害に関する招待講演(浜地)を行った。また、「分子夾雑の生命化学」本学術領域のコンセプトの紹介を行った。

 HHMI(Howard Huge Medical Institute)は、ハワードヒューズの残した遺産を基に巨額な研究資金を提供する組織で、そのほとんどはアメリカの優れた研究者に与えられ、バーチャル研究所として運営されている。その中でJanelia Research Campus は、唯一実際にワシントンDC郊外に設置された研究所で、これまでは脳神経科学を中心にした研究が進められてきた。Janeliaでは幾つかのテーマのコンファレンスが随時開催されているが、今回は1回目の好評を受けて、Luke Lavisのお世話のもと、上記タイトルで化学生物学(ケミカルバイオロジー)に焦点を当てて第2回が行われた。

Jim Wellsの基調講演の後、超一流の研究者が20分の持ち時間で熱のこもった講演と議論を展開する3日間は、刺激に富むものであった。Kevan Shokat, Matt Bogyo, Jack Tauton, Luke Lavis, Phil Cole, Klaus Hahn, Alix Kohler, Dustin Maly, Carsten Schultz, Kai Johnsson, Howard Hang, Bo Han, Erin Schumanなど、巨匠から新鋭までスピーカーリストは素晴らしく、壮観ですらあった。

本領域とも非常に関係の深い細胞やin vivoでの小分子プローブ設計からイメージング、オミックス解析ツール、シグナル伝達、腸内細菌などのマイクロバイオーム、脳神経科学への適用を目指したツール開発、代謝物データベース確立などが1細胞から個体にわたる幅広い観点で、基礎研究から医療応用まで議論された。

参加者が80名以下に絞られ、またキャンパス内での泊まり込みシステムのため、情報交換や共同研究の相談が非公式に進められているのも印象的であった。参加者の中には、選別されたPhD学生や若手アカデミアも含まれており、若手育成の取り組みも工夫が見られる。今回も参加者には好評を得たようで、2年後に第3回が開催予定である事がLukeより最終日に発表された。日本(アジア)からは浜地だけの参加だったのが残念ではあるが、アメリカだけでなくドイツやスイスのケミカルバイオロジー研究の中心的な人物と、分子夾雑の生命化学の国際交流に関して意見交換した。