新学術「分子夾雑化学」海外派遣 ( A01 公募班 : 寺井先生 )
新学術領域研究 海外派遣 報告書
埼玉大学大学院理工学研究科 寺井 琢也
公募研究A01班の寺井琢也は2020年1月31日から2月12日の期間にシンガポールに滞在し、新学術領域「分子夾雑の生命化学」に関連する、アプタマーや生体イメージング、医薬材料などの研究を精力的に行っている研究室を訪問しました。特に人工核酸塩基の開発及びそれを用いた非天然核酸アプタマー探索の第一人者であるInstitute of Biotechnology and Nanotechnology(IBN)の平尾一郎先生のラボ(図1)をハブとして、平尾先生からご紹介頂いた研究室や、他の共同研究者から紹介された研究室を訪問し、ディスカッションさせて頂くことが出来ました。
具体的にはIBNのYiYan Yang先生(ポリマーナノ粒子を使ったがん治療研究)、Yugen Zhang先生(抗菌活性を持つペプチドや無機材料の開発研究)、南洋工科大学(NTU)のBengang Xing先生(蛍光プローブを用いた微生物イメージングやナノ粒子イメージング材料の開発研究、図2)、千葉俊介先生(有機合成化学)、Singapore Bioimaging ConsortiumのSung Jin Park先生(蛍光化合物ライブラリからのスクリーニングを通じた細胞種特異的蛍光プローブの開発研究)、さらには中外製薬のシンガポール子会社であるChugai Pharmabody Research Pte. Ltd.社の井川智之CEOなどとディスカッションし、研究施設を見学してきました。またいくつかの研究室ではセミナーも開催させて頂き、学生さんや研究員の方々と質疑応答を行いました。
シンガポールの研究機関を訪問するのは初めてでしたが、同時期の東京とは異なる真夏のような暑さと日差しの中、オープンでカジュアルな雰囲気を持ちつつも、実力主義が徹底された厳しい競争環境の中で努力されている研究者の方々の姿は印象的でした。建物や研究設備は概ね新しく充実しており、無駄な重複を避けるための配置や運用の工夫がなされているようです。また国が小さいという事もあり、政府が強いリーダーシップを取って数年ごとに研究の重点領域や目標を設定しているそうで、現場の研究者は常に産業界や政府の意向を注視しつつ研究テーマの方向付けを行う必要があるようです。こうした方針が全て良いという訳ではないかもしれませんが、日本が見習うべき点も多々あるように感じました。
新学術領域「分子夾雑化学」の紹介と、寺井が取り組んでいる「cDNA display法を用いた新規ペプチドアプタマー探索手法」の研究内容に関しては、興味を持っていただける先生が多くて有り難かったです。数名の研究者とは、今後の共同研究に向けて継続的に議論を行うことになりました。また平尾研究室の方々とは、ペプチドと核酸という材料の違いはあれど同じアプタマー関連の研究をしているという事もあり、細かい技術的な部分も含めて非常に有意義な意見交換や実験の見学ができました。本来であれば自分でも実験を行いたかったのですが、先方の安全管理規定の関係で短期間の滞在では難しく、今回は傍で見せていただくに留まりました。
期せずして時期が重なってしまった新型コロナウイルスの影響で多少の不便はありましたが、日本との危機管理の違いについて実地に勉強することができ、これもまた良い機会だったと考えています。多くの研究者とのディスカッションやセミナーでの発表、研究室の見学を通じて、同国における最新の研究動向や研究・教育環境に触れる機会を得たことは、今後の自身の研究にとって非常に有意義であったと確信しています。生活的な部分では、シンガポールの街は綺麗で商店やレストランも豊富にあり、交通機関も発達していて日本と同等以上に安全かつ快適な日常生活を送ることができました。このような素晴らしい機会を与えて下さった、国際活動支援班の皆様、IBNの平尾先生、また卒業シーズンに近い慌ただしい時期に研究室を離れることを許可して頂いた埼玉大学の根本教授に厚く御礼申し上げます。
図1.メインハブを引き受けて頂いた平尾研究室の皆様と(平尾先生は左端)
図2.NTUのXing先生と