分子夾雑の生命化学

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代表挨拶

精製系から細胞夾雑系の化学へのパラダイムシフトを目指して!

 タンパク質や核酸に代表される生体分子の構造と機能に関する化学研究は、これまで精製された生体分子を用いて試験管内環境での実験が主流でした。今世紀に入って、そのような精製(希釈)環境での結果と生体分子本来の姿との間にギャップがあることが認識されるようになってきています。このことは、また生体機能制御分子(drugやイメージングプローブ)を設計する際にも大きな障害となっています。私たちが提案した新学術領域研究では、生体本来の環境を、種々雑多な分子が高濃度に濃縮された「分子夾雑系」として捉え、この理解と応用に色々な分野を結集して取り組みます。このような方向性で研究を進めることで、生命化学研究を次の段階へジャンプアップすることができると期待しています。
 生命化学は21世紀に入って、Chemical biologyという融合分野の勃興とともに大きく発展し、特定の生体分子や現象をイメージングできる分子プローブや生体機能(生体分子だけでなく細胞や組織、生体そのものまで)を制御できる化合物や方法論の開発が進んでいます。しかし、私の研究室も含めて成功例の多くは試行錯誤の賜物であり、特に精製系での実験から細胞系やin vivoへと研究を進めるとともに、多くの壁やギャップに直面します。物理生物化学やナノバイオ研究を推進されておられる杉本先生や馬場先生などの同志の先生方と議論する中で、これまで複雑でアプローチの仕方も明確ではないために避けられてきた生体の「分子夾雑」環境を徹底的に理解し制御する理学と工学と生命科学が、新しい学術領域として必須であるという認識に至りました。
 生体特有の「分子夾雑」環境は、研究者によって捉え方が様々だと思いますが、それぞれの次元で「分子夾雑」を徹底的に理解し制御するアプローチを獲得することは、生命システムを物質的な視点から理解するための大きな手がかりを与えると確信しています。またこの領域の発展によって、特定の生体分子(や疾病)を標的にした創薬やイメージング・診断プローブ、デバイスの開発を試行錯誤のジレンマから解放し、より合理的で効率的な設計と呼べる段階へ飛躍できるとも期待されます。「分子夾雑」をキーワードに、幅広い領域の研究者が集い異分野交流と融合を加速し、まさに新学術領域らしい研究活動を推進したいと思っています。どうぞご協力のほど、よろしくお願い致します。

  • 京都大学 大学院工学研究科
  • 教授
  • 領域代表
  • 浜地 格

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