新学術「分子夾雑化学」海外派遣 ( A03公募班 : 武森先生 )
米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)への海外派遣の報告書
愛媛大学先端研究・学術推進機構 講師 武森信曉
公募研究A03班の武森信曉は、2018年11月2日から11月10日にかけて、先端質量分析技術によるタンパク質複合体の構造解析技術を習得することを目的として、UCLAのJoseph A Loo研究室を訪問した。Loo教授はネイティブ質量分析を用いたタンパク質構造解析の第一人者であり、また米国質量分析学会誌の名物編集長として知られている。
これまでに武森は新学術領域における公募研究において、Loo教授のグループと共に、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ネイティブPAGE)で分離したタンパク質複合体の構造を解析するための新たな前処理手法として、ゲル内タンパク質の迅速回収ワークフローの開発を進めてきた。
今回の訪問では回収試料をUCLAの質量分析装置を用いて自ら測定することにより、質量分析を用いたタンパク質構造解析における開発手法の有効性を検証した。Loo研究室では、超高分解能FT-ICR質量分析装置(15 Tesla Bruker SolariX FT-ICR MSシステム)を天然のタンパク質複合体の構造解析(ネイティブ・トップダウン質量分析)に使用しており、今回の訪問はLoo教授およびラボメンバーからネイティブ・トップダウン質量分析の直接指導を受ける貴重な機会となった。
9日間という極めて短期間での訪問であったが、マシンタイムを優先的に与えてもらえたおかげで、国内では実施が困難なネイティブ・トップダウン質量分析によるタンパク質測定を十分に行うことができ、その解析ノウハウを取得することができた。また研究室メンバーと共に直接実験を行うことにより、開発技術に対する相互理解が深まり、さらに得られた結果の検証をその場で迅速に行うことができるため、UCLA滞在中に論文化に必要なすべてのデータを取得することができた。
今後は、開発したネイティブ質量分析のための前処理法の論文化を進めると共に、インタクトタンパク質の大規模解析手法として現在注目されているトップダウンプロテオミクスのための前処理技術の開発に向けて、新たな共同研究を開始することを予定している。